BCG管針を強く押さない理由について


BCGの接種法を、「強く押さなければならない」と考えている方が多く、問い合わせがありましたので、解説します。

● BCGは、皮下接種にならないように、軽くポン

 BCGの投与部位は皮内です。このデバイスは、誰もが簡単に接種をするために工 夫されたものですが、それでも乳児には乳児なりの打ち方があります。皮下にな らないように気をつけなければいけません。
 正しいうち方は、「皮下にならないように浅く接種する事」です。「強く押し付ける」ことは必須ではありません。
 BCGの接種方法の変遷について、結核研究所の2010年の解説記事をご覧ください。皮下だと潰瘍になりやすいから皮内になって、皮内は手技が難しいから経皮接種になったようです。
 カルメットらは,最初BCGを新生児に口から飲ませ ていました(経口投与)。しかし,この投与法では効果がいまひとつ不確実だったので,皮下注射が試みられましたが注射局所に潰瘍や膿瘍ができやすく,まもなくもっと浅く注射する皮内注射に替わりました。それでも,皮内注射は技術的に難しく,しばしば誤って皮下注射になってしまって潰瘍や膿瘍ができたり,正確に皮内に注射が行われた場合でも注射局所に直径数ミリのかなり目立つ瘢痕が残るので,もっと安全で醜い痕を残さない接種方法として経皮接種が世界中でいろいろ工夫されました。現在わが国で行われている9本針の管針を使う方式は最も洗練された経皮接種法です。
戸井田 一郎 : BCGワクチン 結核研究所, 2010 http://www.jata.or.jp/rit/rj/332P15-16.pdf より引用

 相手によって手技を適切に調節することは医師の役割です。たとえば筋肉注射の際に、相手の体格によって針の長さを変えて、筋肉内に入るように調節します。杓子定規に1インチの針を根元まで入れるのが目的ではなく、筋肉に入るように調整することが重要です。相手によって加減を変えるのは医師の役割です。

 BCGの今のデバイスは、円筒形の筒より、針が出ています。
 ですから、軽く押さえるだけで針が皮内に入ります。 乳児の皮膚は、いうまでもなく非常に薄いです。昔は小学生や中学生など皮膚が厚い子に接種しましたので、強く押す必要があったのかもしれませんが、今は0歳がターゲット です。強く押すと皮下にまで入ってしまいます。

 乳児のBCG接種で強く押し付ける(=皮下注射の)デメリットは、接種後の細菌感染による化膿の頻度が高くなること、皮下をBCG菌が流れて離れたところに 発疹・皮下結節などを起こしやすくなること、将来の接種痕が大きくなる ことなどです。また、手が滑って川の字の傷をつけたりします。

当院ではごらんいただいたビデオの方法で接種していますが、1ヵ月後にはしっ かり接種針部位の発疹が出ます。この程度の強さで充分皮内に入ります。シャチハタ印を「ぽん」とおす感じで接種してください。 「ぎゅー」や「ぐりぐり」「がりがり」はだめです。


● 予防接種ガイドラインでは、昔は「強く」と書いてあったのが、削除されています。
【2005年の予防接種ガイドライン
(https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/guideline/1.html)   ← 削除されました。閲覧できません。
(内容が古すぎるので、参考にしないように。あくまでも比較用です。)

 ワクチンを幅1.5cm,長さ3cm程度に管針のツバ又は円筒外側面で延ばした後,管針を垂直に上腕骨に向かって強く押し,2押し目は1押し目の管針筒の輪状痕に接するように押す。接種後,皮膚面のワクチンを管針の横又はツバで2〜3回なすりつける。数個の針痕からは軽い出血が見られるのが普通である。局所は自然に乾燥するまで待つ。直射日光は避けなければならない。
【2018年の予防接種ガイドライン
 ワクチンを幅1.5cm,長さ3cm程度に管針のツバで延ばした後,管針を垂直に上腕骨に向かって押しつけ,2押し目は1押し目の管針筒の輪状痕に接するように押す。接種後,皮膚面のワクチンを管針のツバで2〜3回こすりつける。数個の針痕からは軽い出血が見られるのが普通である。局所は自然に乾燥するまで待つ。直射日光は避けなければならない。

太字下線が変更部分です。
いつから変わったかはわかりませんが、2014年のガイドラインも2018年と同文でした。
「強く」 が削除されたのは、「強くやっちゃだめ」という意図があると読み取ってください。

● 添付文書は古いまま
BCG添付文書 http://www.bcg.gr.jp/bcg/pdf/text_k_bcg.pdf
昔の手技のままです。基本的にメーカーは、 最初に決めた内容を変更するにはそのことを証明することが要求され、コストと 手間がかかりますので、めったなことでは変更しません。


               2018年9月25日  名鉄病院 予防接種センター

2019年1月9日追加:
 2005年予防接種ガイドラインは、厚生労働省のホームページから削除されました。